どれほど実践を積んだ人でも、それに甘んじず仕事の技術は磨き続けるものです。研修の内容が、現場にそぐわないということはもちろんあります。しかし、研修で伝えられる技術についてはそっくりそのまま現場でやる必要はなく、そもそもそっくりそのままはできないものなのです。
たとえば、ベッドから車椅子に移乗するという一つの事でもそうだといえます。お年寄りがどのような状況なのか・現場の環境はどうか・介護する人は誰なのかという組み合わせだけで、移乗の方法は多くのバリエーションが出てくるわけです。介護する人は、その中で最適な方法を考えなければいけません。研修で教わることは、そのバリエーションの基本中の基本といえます。経験を積んだ人は、自分の体験を絶対視しがちです。現場では介護用品も日進月歩で新しくなっており、身体に関する技術も現場の実践を集約する中で更新されています。研修では、最先端の技術と仕事の基本を学ぶことができます。しかし、長く現場にいた人は、お年寄りを機能障害のある弱者と見ます。
そして、ケアとはその機能障害による欠陥を補うこと、つまり「援助」することと考える傾向が強いのです。それは、医師が病気ばかりを診て、患者さんの人間としての全体像を見ないのに似ています。しかし、生活を原点にしてお年寄りと接すれば、それぞれが異なる人格を持った個人であることが分かるのです。その結果、主体性を大切にした介護が必要なことにも気がつきます。